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日本の国際競争力低下と博士課程入学者減少

 今の日本の国際競争力はどうなっているのでしょうか.2023年6月20日にIMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)が公表した世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)によると,2023年の日本の競争力は対象国64か国・地域中35位と報告されています(1).アジア太平洋地域と比較すると,日本は14か国中11位です.ちなみにアジア太平洋地域での1位はシンガポール(総合4位),その後に台湾,香港が続き,日本より上位にマレーシア,タイ,インドネシアなどの新興国も選出されています.これまでの日本の順位の変化を見てみると,公表が開始された1989年から1992年までは1位であり,その後年々順位を落としているようです.このデータが本当に実際の競争力を示しているかは確定できないかもしれませんが,少なくとも世界から見て今の日本はそのような立ち位置とみられているのは確かなようです.失われた30年とよく言われていますが,まさしくデータでも同じことがいえます.

  では私たちの分野である大学・教育分野ではどうでしょうか.上記競争力において総合順位を構成する4つの因子「インフラ」,「経済パフォーマンス」,「政府の効率性」,「経営の効率性」の内「インフラ」の項目に「教育」がありますが,日本は35位となっています.

 研究力についても見てみましょう.文部科学省が公表する科学技術指標2022では,注目度の高い論文において日本は年々順位を落としており,今では12位と報告されています.また,日本とアメリカにおける部門別博士号保持者として,アメリカでは大学等が44.6%,企業が39.9%であるのに対して,日本では大学等が75.3%,企業は13.7%しかありません.つまり,頑張って博士号を取得しても日本では企業に就職することが困難だといえます.

 最近でも博士課程の入学者がここ20年で2割減少したとのニュースがありましたが,先端研究や技術進歩の担い手であり,これからの日本を支える若者が少なくなっていることは私たち大学教員としても改めて考えていく必要があります.一概にはいうことはできませんが,博士課程まで進み専門性を高めたとしても,日本ではアメリカなどと比較すると就職先としての選択肢が少ないということが言えるのではないでしょうか.そのうえ奨学金を借りて授業料を払い,就職後も奨学金の返済が必要というのはあまりに酷です.博士課程に進学することによるメリットが今の日本では少ないのではないでしょうか.

 今の時代,昭和の教育方法を守るというこれまでの日本式の教育方法では,これからの時代は戦っていくことができません.特に今は時代の変革期といわれており,個人のスキルを高めていく必要があります.大学としても博士課程に進むことのメリットを環境としても作っていく必要があり,私ができることは少ないですが,継続して未来ある若者の教育を続けていきたいと思います.


(1)IMD世界競争力センター,https://www.imd.org/

(2)文部科学省科学技術・学術政策研究所,科学技術指標2022

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